タイトルから想像できないようなとても優しいストーリー。
親子を越えた特別な関係、豊かな自然、おいしい食べ物、おばあちゃんが教えてくれる修行。
周囲を理解して、自分はどうするのか、心を決める大切さがわかる小説です。
この記事のキーワード
【おばあちゃん】【心】【自然】【魔女の修行】【理解】
本に出合ったきっかけ
疲れた心に効く本をネットで検索していたところ、大人でも楽しめる児童文学の紹介記事でこの本を知りました。不登校の子どもが祖母の家で過ごす暖かい物語、そのようにあらすじは書かれていましたが、正直ピンと来ない感じでした。心が回復していく様子が描かれている、というところに興味が引かれたのでとりあえず買ってみました。
本から知ったこと
草いきれ、という言葉。
意味は夏、強い日光に照らされて、草の茂みから生ずる、むっとした熱気。
草木や花の名前を具体的に挙げているところに作者のこだわりを感じました。
本の感想 ~終わりでストンと落ちるような読了感~
学校に行けなくなってしまった主人公はおばあちゃんの家で魔女の修行をします。
とはいえ、本当に魔女になるための修行ではありません。
魔女の心得を学ぶ修行です。
誰にでも気持ちが先行して感情が飛び出してしまうことがあります。
そのときに周りからの影響をしっかりと受け止めて、無視するべきところは関知しないようにするのは簡単ではありません。
繊細で多感な人には何よりも難しいことかもしれません。
心に決めたことを辛抱強くやり抜くことも難しいことの1つです。
うまくやるためには、自分と他人、自分と周りとのバランスをとって、周りを受け入れる必要があります。
自分以外の相手を理解することで、心は落ち着き、見えなかったものが見えて対応が楽になりやすいです。
主人公のまいは草花、木、野菜やハーブ、虫、ほとんどの自然を受け入れることができます。
自然を理解することができるのは西の魔女とその家族のおかげだと思います。
一方で、恐れている過去の出来事が自然のざわめき、吠える犬などで表現されています。
西の魔女はそのようなものを悪魔とも説明しています。
無意識にオブラートに包んでいるようで作中でその正体は明らかになりません。
恐れていることが近づく恐怖感は描かれていますが、具現化されないのは修行の賜物かと思います。
悪魔の象徴として毒を持つ草花が登場します。
きれいで神秘的な草花が多く登場する中でその存在は異質です。
西の魔女から、飲んではいけない、薬としての使い方がある、大切にしないといけないと教わります。
そこにあるということを覚えていて頭の片隅に置いておく、決して飲み込んで消化しないようにしています。
この対応こそ、西の魔女が修行で学んでほしかったことだと考えています。
ストーリーの序盤から主人公は自分の領域の外にいる人、理解できないことを嫌悪します。
はたから見ると思い込みであったとしても、彼女は素早く心理的な防御の姿勢を取ります。
彼はぶっきらぼうで俗っぽく、西の魔女の対極のような印象を受けるシーンが多いです。
おじさん、数年前に移り住んできた、吠える犬、エロ本、ぶっきらぼうな物腰に加えて、毒を持つ草花を気にせず踏んでしまうところは反面教師的に描かれているようです。
主人公は次第にその人のことを憎むようになりますが、西の魔女は憎しみの発露を間違ったことだと強く非難します。
終盤で主人公が悲しみながらもその出来事を反芻することは成長の証だと感じました。
最後の場面では、遠ざけて憎みもした世界と彼女がつながりを持って、1つの円が完成するような清々しい読後感が残ります。
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